2人の女性を同時に同じだけ好きになるということが、男にとっていかに悲劇的であるかを、身をもって嫌というほど学ぶことになります。今でもあの時どうしていたら良かったのか分かりません。ただ、自分が選んだ選択肢以外は有り得なかったと、今でもそう思っています。
禁じられた恋
その日は寒い冬の日でした。
Kさん「H~、あっためて~」後ろから抱き付かれます。
筆者「Kさんw」
Kさん「Hの背中あったかい、ずっとこうしてたいな」抱き締められます。
筆者「Kさん、どうしたの?寒いの?」
Kさん「ずっと外で作業してたから体が冷え切っちゃった」
筆者「そうなんだ、大変だったね」
Kさん「H、手あっためて」
筆者「俺の手が冷やされてるんだけどw」
Kさん「冷たいでしょwあれ?今日はいつも一緒にいる人いないの?」
筆者「あいつは、サッカー部の用事で今日は来れない」
Kさん「へぇー、あの人サッカー部だったんだ。そうだ、Hに会ってもらいたい人達がいるんだけど?」
筆者「えっ、会ってもらいたい人達って?」
Kさん「剣道部の友達なんだけど、あの話したらHに会いたいって」
筆者「あの話って?」
Kさん「Hが私に部活辞めるなって言ってくれた話をしたんだ」
筆者「えっ、言っちゃったの?」
Kさん「言っちゃダメだった?」
筆者「全然ダメじゃないけど、何で話したのかなぁって」
Kさん「私が部活辞めなかったのはHのお陰みたいな話になって」
筆者「そういうことか」
Kさん「友達もみんな凄い感動してさぁ、そんなこと言われてみたいとか、ドラマみたいとか、それでHに会ってみたいって話になって」
筆者「何で俺に?」
Kさん「どういう人か会ってみたいんだって、私もHのことその子達に紹介したいし」
筆者「その友達さぁ、多分、かっこいい人を想像してると思うよ。だから俺なんか紹介したらKさん恥かくと思うよw」
Kさん「そんなことないって、もっと自分に自信持ちなよ。それに私の友達はそんな子達じゃないからさぁ、本当にいい子達なんだって」
筆者「可愛いの?その子達って」
Kさん「可愛いよ」
筆者「でもKさんの方が可愛いでしょ。Kさん今日ほっぺが赤くて一段と可愛くなってるね」
Kさん「ほっぺまだ赤い?」
筆者「うん、ていうか、Kさんて会う度に可愛くなってない?」
Kさん「何か今日のH変だよwどうしちゃったの?」
筆者「そーお、変かな?」
Kさん「変だよw」
私はこの時、Kさんが本当にかわいくてどうしようもありませんでした。Kさんの照れて赤くなって可愛らしくなった顔を見て、彼女を抱きしめたいという強い衝動に駆られます。
筆者「Kさん、ゴメンね、俺もう行かないと」
Kさん「えっ、もう行っちゃうの?」
筆者「ゴメンね、またね」
Kさん「うん、またね」
教室へ向かう途中、自分がKさんに恋をしていることに気付きます。それも、人前で抱きしめたくなるほど彼女を好きになってしまっている自分に愕然とします。
三角関係
当時、私には中2の夏から付き合っている彼女がいました。私達が付き合っていることは、もちろん、クラスメイトだったKさんも当然知っていました。中学時代、悪ふざけでKさんにちょっかいを出した時に、Kさんから「あんまりふざけたこと言ってるとDに言い付けるよ」と言われたことがあります。なので、私がKさんに告白するには、先ず、Dさんと別れなければなりません。しかし、私は、Dさんのことも愛していたので、Dさんと別れるなんてことは到底できません。Kさんに告白したくても告白できないジレンマが私を苛め始めます。こんなにKさんのことが好きなのに、何で俺はKさんに好きだって言えないのか、こんなに好きなのに好きだと絶対に言えないことが、これほど辛く苦しいことなんだと初めて知ると同時に、この苦しみに高校卒業まで耐えなければならないのかと思うと、絶望感で目の前が真っ暗になったことを、今でもはっきりと覚えています。
この時の私は、Kさんのことを忘れる以外にないと考えていました。Kさんのことを忘れて、彼女との関係を新たな段階へ進めることを考えていました。
恋人同士だったら良かったのに
Kさんのことを忘れたいのに、Kさんがクラスに訪ねて来ます。
友達「T、あの女が来てる」
筆者「えっ、ほんとに?」
友達「あそこにいるじゃん」
友達があごで指し示す方向にKさんの姿を見つけます。
筆者「Kさん、中に入ってくればいいのに」
Kさん「なんか恥ずかしくて、なかなか入れなかった」
筆者「今日はどうしたの?」
Kさん「Hに会いたくて来ちゃった。迷惑じゃなかった?」
この時、Kさんを抱きしめたいという強い衝動に駆られます。カリオストロの城で、ルパンがクラリスを抱きしめたいのに抱き締められない、まさにあの感覚です。
筆者「迷惑なわけないでしょ。俺もKさんにすごく会いたかったから嬉しい」
Kさん「ほんとに~、だったら何で会いに来てくれなかったの?」
筆者「ごめんとしか言えない」
Kさん「まぁ、いいんだけどさ。でも、普通科ってやっぱり体育科と雰囲気違うよね」
筆者「そうなんだ。俺、体育科校舎に行ったことないから、そんなに違うもんなの?」
Kさん「体育科に比べると、普通科は落ち着きがあるって感じがする」
筆者「体育科って落ち着きなさそうな気がするw」
Kさん「みんなエネルギッシュだよw元気良すぎ」
筆者「なんかそんな感じがするよね」
Kさん「私も普通科に入れる頭があれば、Hと同じクラスになれてたかもしれないのになぁ。全然勉強してなかったから仕方ないんだけどさ。でも、Hって凄いよね、Hだけじゃない?剣道部でレベルの高い高校受かったのって」
筆者「俺も最初はNとかと一緒の高校に行くはずだったんだけどね」
Kさん「そう言えばそうだったよね。あー、もう行かなきゃ。体育科校舎って結構離れてるから、少し早めに行かなきゃなんだよね」
筆者「気を付けてね」
Kさん「今度はHが私のところに来る番だからね!友達にHのこと紹介したいし、絶対来てよね!」
Kさんが帰り、みんなのところに戻ります。
友達「今日は抱き付かれなかったなw」
女子A「T君にあんな可愛い彼女がいたんだね」
友達「彼女じゃなくて、ただのクラスメイトなんだよなw」
女子A「ただのクラスメイトねぇ」
女子B「どう見ても恋人同士にしか見えなかったけど」
この時の私は、Kさんと恋人同士だったらどんなに良かったかと思っていました。休み時間にお互いの教室を行き来して、昼休みに一緒にご飯を食べることができたらどんなに幸せだったことかと、そう考えると、物凄く胸が切なくなりました。
転校するしかない
Kさんがクラスに訪ねて来てくれて、本当はあまりの嬉しさに飛び上がりたかったというのが本音で、でも、こんなことを続けていたら良くないと言う思いもあり、それは、彼女(Dさん)を裏切っていることに対する背徳感というか、正直、自分でもどうしていいのか全く分からなくなっていました。Kさんが欲しいという感情が強くなるにつれて、彼女に対する後ろめたさも強くなり、だからと言って、Kさんのことを忘れることなんてできないし、むしろ、彼女(Dさん)よりも、Kさんと恋人同士になれていればどんなに良かったことかと、そんな恐ろしいことまで考えるようになってしまっている自分に恐怖を覚えることもありました。Kさんが好き過ぎて辛い、だけど、彼女(Dさん)とも別れられない、どんなにKさんのことが好きでたまらなくても、Dさんと別れない限りKさんとの恋は絶対に成就しない、でも、Dさんを捨ててKさんと付き合うなんて絶対に出来ない、このループを頭の中で延々と繰り返していました。この時点での選択肢は、Kさんに対する恋愛感情を捨てて、彼女に「俺はお前のためにここに残る」と言うか、「Kさんと付き合いたいから別れてくれ」と言うかの二択でした。そして、どちらの選択肢も自分には有り得ない選択肢でした。私が最後に出した結論は転校でした。もはや転校する以外に、この苦悩と葛藤と絶望から抜け出す道はないと、この時はそう思っていました。
Kさんがあんなに可愛くさえなければ、こんなことにはなっていなかったと思います。Kさんがあまりにも可愛すぎたことが私の不幸でした。Kさんが普通の可愛さだったら、ただのクラスメイトでいられたはずでした。


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